DATE 2008.10.25 NO .



 顔をあげて隣を見やると、リディアはまだだった。
 仕方なく、もう一度親父達と向き合う。

(さっきも言ったけどさ、見ててくれよな親父、お袋……)

 旅を終えてからこの墓を建てた。ここなら親父の願いに沿うだろうし、俺にとっても、ここは特別な場所で。

 それから時々はここに来るようにしている。だから、言ってしまえばそんなに話す事もない。それに言葉ではなくて、エブラーナの姿で示したいと思うから、な。
 最期に見た二人の姿を思い浮かべる――俺は「あの日」、城を留守にしていたわけだから、結果的に最期になったのは、出立前の日常的な表情と……因縁深いバブイルの塔での「笑顔」。

 あれは笑顔だった、と思っている。
 生きていたら、今、どんな顔をしていただろう。

 親父はいつもと大して変わらない、か。
 お袋は…きっと甲斐甲斐しく諸々の采配に口を出していそうだ。

(――って、何感傷的になってんだ、俺! あー、駄目だ駄目だ、ここに来ると余計な事考えちまう!)

 たまには必要なんだろうけどな。

 その時、ようやく視界の端でリディアが顔をあげた。

「…なぁ、リディア」

「なに?」

「お前にとってはさ、俺の親っつっても赤の他人だろ? それに……会話らしい会話もなかったわけだしな。何をそんなに話し込む事があるんだ?」

 思った通りの事を聞いてみる。

「うーーん……」

 考える仕草にあった子供っぽさが抜けたよな、とかどうでもいい事を考えていると、リディアはふいに笑顔を浮かべる。

「…ないしょ」

「――もったいぶった末にそれかよ!」

「立派な御館様ならわかるって」

 あぁ、この笑顔は眼の傷の事を持ち出す時とよく似てる。

「…お前にはほんとかなわねーな」

 お前相手だと隠すのが本当に大変だよ。

「ん、何か言った?」

「別に、何でもねぇよ!」

 立ち上がって、リディアに手をさしだす。

「ほら、行くぞ」

「うん、ありがと」

 隣に立ったリディアは、また微笑む。
 今度は悪戯っぽいあれではなくて、ふわりと。



『じゃぁ、私からもお願い』



「明日、楽しみだね」

「何も変わらねぇって。ま、お前にはいろいろと面倒なもん背負わす事になるだろーけどよ」

「…でも、楽しみでしょ?」

「うっ……そりゃぁ、まぁ、それなりには……」

「皆と会えるねー。あれからそんなには経ってないけど、どうしてるかなぁ」

「…そっちなのか!?」



『ひとりに、しないで――』



 召喚士というものと、ちゃんと向き合おうと思った。
 その結果、狭い村の中での血族婚の実態やそのために総じて彼らの寿命が短い事を知った。

 リディアが、いなくなる。
 そう考えた時、感謝を伝えきれないまま逝ってしまった親父達の事を、想った。

 寿命が短いなら早く、だとか、そんなくだらない事を考えたんじゃない。
 ただ、一緒にいたい――

「――何難しい顔してるの?」

「…俺が考え事してちゃ悪いかよ」

「眉間にしわ寄せてたって仕方ないじゃない。……ほら、笑って笑って」

「そう、だな――」





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